プログラムの聴きどころ
さてそのプログラムの聞きどころについて解説いたしましょう!
○11/25ロスト・アンドレア オペラアリアコンサート
オープニングは歌劇「ファウスト」(グノー)のバレエ音楽第1曲“ヌビア人の踊り”から始まります。これはロストさんの歌い始めが同じくグノー作曲歌劇「ロミオとジュリエット」であることから選ばれた曲です。フランスオペラを代表する作曲家のひとりグノーのバレエ音楽はどれも優美で華やかのものですが、力強いオケの総奏後に続くワルツの優雅とのコントラストはこの作曲家の特徴でしょう(注.フランスオペラでは歌唱と同じくバレエのシーンが重要視されていた)。さてロストさんの登場で同じくグノーの歌劇「ロミオとジュリエット」(グノー)から“私は夢に生きたい”が歌われます。第1幕のキャピュレット家の仮面舞踏会でジュリエットが歌うアリアで、《ジュリエットのワルツ》としても知られています。ここでのジュリエットはまだロミオに会っておらず、青春真っただ中の少女の淡い恋心や憧れが歌われます。
続いて歌われるのは歌劇「ドン・パスクワーレ」(ドニゼッティ)からカヴァティーナ“騎士はあのまなざしを”です。ドニゼッティはロッシーニやベッリーニと並ぶ19世紀前半のイタリア古典~初期ロマン派を代表するオペラ作曲家です。既に「愛の妙薬」「ランメルモールのルチア」等で成功を収めていたこの作曲家の円熟期の作品で、第1幕第3場で主人公ノリーナが歌う曲です。勝気で気まぐれ、それでいて愛らしいノリーナが古い騎士物語を読んでこんなことってないわよとひとり語るという、その性格表現がとても要求される楽曲です。
次にヴェルディの楽曲が並びます。まずはオーケストラのみで歌劇「マクベス」からバレエ音楽第1番。シェークスピアの戯曲「マクベス」を原作に作曲したヴェルディ初期のオペラで、初演から17年経ってパリ・リリック座での上演を機に作曲者が大幅な改訂をし、第3幕にこのバレエ音楽が挿入されました。権力の座を狙うマクベスが訪れた洞穴に住む預言者たる魔女たち…その奇怪な様子をヴェルディ流に作曲されたもので、その躍動感と力強さをお楽しみください。
続けてロストさんの登場…今度は同じくヴェルディ作曲の歌劇「リゴレット」から“慕わし人の名は”です。道化師リゴレットに人目に触れないよう育てられていた美しい娘・ジルダは、父が仕える侯爵マントヴァに教会で偶然に会います。貧しい学生だと偽って名乗ったその男に世間知らずのジルダはすっかり恋に落ち、その名を慕って歌います。
そして次は同じくヴェルディの作品の中でも最も知られているであろうオペラ、歌劇「椿姫」より第1幕への前奏曲をオーケストラが演奏した後、第1幕最後に歌われるヴィオレッタの有名なアリア「ああ、そはかの人か~花から花へ」と続きます。高級娼婦としての身ながら気高く生きるヒロイン・ヴィオレッタの悲痛な思いを語るような前奏曲の後に曲調はそのヴィオレッタが暮らす社交界の華やかな趣に一転し、いちずに思いを寄せる青年アルフレッドの愛の告白を受けたヴィオレッタ自問しながらその葛藤を歌います。
休憩を挟んで後半はまずドヴォルジャークの演奏からスタートです。「チェコ組曲より」第2曲“ポルカ”がオーケストラのみによって演奏されます。前半がフランス。イタリアという色彩豊かなラテン系の音楽が並んだのに対し、後半は中央ヨーロッパであるチェコの音楽がまず演奏されることによって舞台上の雰囲気がガラッと変わることになるでしょう。こうした選曲も井﨑氏のこだわりの演出と言えます。
続いて同じくドヴォルジャークの歌劇「ルサルカ」より“月に寄せる歌”がロストさんに歌われます。曲の雰囲気の変化に加えて今度は歌詞もチェコ語になります。フランス語やイタリア語の歌詞の発音と音楽がそうであるように、あたかも夜と深い森の情景を感じさせる音楽に乗って語られるチェコ語の歌詞には、素朴ながら雄弁な語りを感じることが出来るでしょう。
次はいよいよハンガリー音楽。“ハンガリー音楽の祖”エルケル作曲の歌劇「フニャディ・ラースロー」より“パロターシュ”です。パロターシュって何?って思われる方がほとんどでしょう…これはハンガリーに伝わる踊り=民族舞踊の一種です。踊りのモティーフが全く同じのチャールダーシュが主に一般大衆の踊りとして定着しているの対し、このパロターシュは「宮殿の踊り」という意味で、対象が貴族や地位の高い人、あるいは社交界へのデビュタント(これからデビューする若者)たちによって踊られるものです。気品ある出だしで始まる音楽ですが、やがて熱を帯びてきてハンガリーの情熱あふれる民族音楽へと発展していきます。
このパロターシュを受けて、ロストさんが次に歌うのはカールマン作曲の歌劇「チャールダーシュの女王」より“シルヴィア登場の歌~ジーベンビュルゲンの娘(私の故郷は山の中)”です。今回披露するオペレッタ3曲はロストさんにとっての新境地とも言えるものでしょう。特にこの曲は歌唱力のみならず民族に流れる“血”で歌うようなところがあり、民族舞曲の激しいリズムとステップの上に歌われる旋律で聴き手をあっという間にハンガリーの空気に取り込んでしまう…きっとそんな舞台になるに違いありません。
オペレッタ2曲目はレハール作曲の歌劇「メリー・ウィドウ」より“ヴィリアの歌”です。前述の「チャールダーシュの女王」と同様、井﨑氏にとってこの「メリー・ウィドウ」はブダペスト・オペレッタ劇場の来日公演で氏の名を世間に大きく知らしめた特別な作品と言えるでしょう。今回はヴィリアの歌だけでなく、その前に演奏される第2幕・幕開けの序奏~舞踊(ハンガリー舞曲“コロ”)と音楽が続き、そのクライマックスにトランペットのファンファーレと共に主人公のハンナが登場してヴィリアの歌を歌う…そんな演出も考えられているそうです。これは本当に楽しみ!
さてプログラム最後に披露されるのはヨハン・シュトラウスⅡ世作曲による歌劇「こうもり」より“チャールダーシュ”です。オペラ、オペレッタの枠を超えて、数々の名歌手たちによって歌われてきた作品ですが、ことこのアリアに関しては別! やはりハンガリー人による演奏は、固有の音楽感(観)と伝統に培われている“本場もの”であるに違いありません。序曲の一部に続いて演奏されるアリアの前奏クラリネットが鳴った途端、オペラシティの舞台はオペレッタ劇場と化していることに気付くかもしれません? 久しぶりにオペレッタ指揮で演奏する井﨑氏の手腕も楽しみなところです!
○11/27ソルノク市立交響楽団・合唱団コンサート
いよいよこのオーケストラと合唱団、そして井﨑氏の本領が発揮される演奏会です。 オープニングはバルトーク作曲「ハンガリーの風景」で、曲は以下のようなタイトル5曲による組曲で構成されています;
第1曲「セーケイの夕暮れ」 第2曲「熊踊り」 第3曲「メロディ」 第4曲「ほろ酔い加減」 第5曲「豚飼いの踊り」
元々はどれもバルトーク自身のピアノ曲を自身の編曲によって管弦楽曲にされたものです。1曲目は現在ルーマニア領であるセーケイ地方(トランシルヴァニア地方から東に続く場所)の夕暮れの様子を表した曲で、クラリネットの寂しげな旋律が発展して平原の広々とした風景を彷彿とさせます。井﨑氏は音楽総監督に任命されてすぐ、オーケストラと共にこの地方を訪れ、もとはハンガリー領であるこの地の風景とそこに残って頑なに生活するハンガリーの人々と触れ合って大きな感銘を受けたそうです。きっと演奏に反映されていることでしょう。
2曲目の熊踊りというのは熊が荒々しく踊っている有様…ではなく、捕らえられた熊が可哀そうなことに熱した鉄板の上に放たれ、熱さのあまりじっと出来ずにのたうち回って動く有様を模倣した…そんな言い伝えの踊りだそうです。一体どんな踊りでしょうか? 音楽から想像してみましょう!
3曲目は物悲しく寂しい風景にある旋律が聴こえている…そんな情景です。バルトークはその晩年に(アメリカで)作曲した「管弦楽のための協奏曲」の中でも“エレジア(哀歌)”という雰囲気の良く似た曲を加えています。彼にとってハンガリーのこうした原風景は生涯故郷を愛する気持ちと共に生き続けたのでしょう…。
4曲目はちょっとユニークな曲です。ハンガリーでも生活の中にお酒は欠かせません。農民たちは酒を飲み交わして笑い、語り合い…しゃっくりしたりロレツが回らなくなるうちに、時として議論が始まったり酔いが回って千鳥足になったり…バルトークのユーモアが随所に溢れています。
5曲目が豚飼いの踊り。農夫が棒を持ってたくさんの豚を追いかける有様…その情景に映る愉快な踊り…バグパイプのような楽器に合わせて踊るカナスタンツと呼ばれる踊りは豚飼いの踊りという名から独立して、もうチャールダーシュのような踊りの分野になっています。
続けて演奏されるのは同じくバルトーク作曲ピアノ協奏曲第3番です。ピアノのソリストは干野宜大(ほしの・たかひろ)氏で、桐朋学園音大からリスト音楽院にハンガリー政府給費生として学んだ逸材です。氏と井﨑氏とは今年2月のフライハイト交響楽団との同プログラムで共演を行い、また今回の東京公演に先駆けてさる9月1日「ソルノクの日」祝祭演奏会でソルノク市響とも共演を果たしています。まさに東京公演に照準を合わせた演奏を重ねてきていたのですね。
このバルトークのピアノ協奏曲は、作曲者がアメリカに亡命した後にこの世を去る直前に書かれた作品です。アメリカの生活が馴染めず、しかも不治の病に侵されながらも必死の思いで書き続けたこの作品には、作曲者の故郷ハンガリーに対する望郷の念や、死ぬ間際にあっても衰えなかった作曲者の優れた技法が盛り込まれていると井﨑氏は述べています。
さて休憩後の舞台には合唱団が登場しています。ソルノクの市立プロ女声合唱団「バルトーク・ベーラ室内合唱団」そして彼女たちが混声として活動する際のパートナー「ソルノク・コダーイフェスティヴァル合唱団」、そして今回の公演のために井﨑氏の呼びかけで結成された「ハンガリーフェスティバル合唱団Tokyo」の合わせて60人の合唱団です。
まずはハンガリーの合唱団のみによる無伴奏合唱、チェミツキー作曲「アヴェ・マリア」が演奏されます。1954年に生まれたこの作曲家は戦後世代のハンガリーの合唱界で大きな役割を担いこれまで数々の作品を送り出しています。近年日本でも紹介されることが多くなってきましたが、中でもこのアヴェ・マリアは特に印象に残る作品と言えるでしょう! ハンガリーの合唱団の水準の高さにも是非注目です。
続けて演奏されるのがいよいよメインプログラム、コダーイ作曲「ミサ・ブレヴィス」です。これは1942年~1944年という第二次世界大戦の最中に書かれた曲です。ナチス・ドイツの台頭で戦火にさらされていた中ブダペストから離れた修道院に籠って作曲され、初演は教会の地下室で行われたという作品です。全篇にコダーイの「平和への祈り」が溢れるような作品ですが、民族色豊かな強いリズムやコダーイ独特の転調などにはハンガリー音楽のエッセンスともいうべき要素が感じられます。最初オルガン伴奏によって書かれた曲ですが、今回演奏されるのは作曲者自身が初演6年後に改編したオーケストラ版です。演奏にはオーケストラとオルガン、そして混声合唱団の他、3人のソプラノソロに、アルト、テノール、バスのそれぞれのソリストが必要です。3人のソプラノの1番高い部分をロストさんが歌い、その下の2つのパートをバルトーク室内合唱団のショモギさんとタツマンネさんが歌うという布陣です。アルトのボコルさん、テノールのムックさん、バスのイェクルさんはもう何度も井﨑マエストロと共演した常連ソリスト。今回も息の合った演奏が期待できるとのことです!
ミサ・ブレヴィスというのは元々「小さなミサ曲」という意味ですが、ここで演奏される音楽はとても小さいとは呼べない大きな建築物のような雰囲気を持っています。井﨑氏が声楽とオケをどう融合した音楽を展開するかを楽しみにしたいものです。
さて演奏のプログラムはすべて終了…ところが前述の通り井﨑氏から特別に教えてもらった極秘情報が「アンコール曲」の演奏! もちろんここで何の曲が演奏されるかをバラすわけにはいきませんが(苦笑)、そこを何とか!!というお願いに対して井﨑氏からはヒントを頂いております…
「アンドレアさんはもちろんこのコンサートの流れで数曲の有名なアリアをアンコールに用意なさっていますが、それに加えていま彼女がこれからのライフワークとして取り上げたいある作曲家の楽曲を用意しています。演奏するかしないかは当日の彼女の気分次第?ですが、出来ることならぜひこの響をご披露したいですねぇ~!」
「今回ソルノク市響のコンサート演奏にあたっては、皆さんおなじみのハンガリーにちなんだ楽曲を用意していますが、でもせっかく合唱団もいることだし何かコラボレーションしたいと考えています。でも普通の曲じゃつまらないし…あっと驚くサプライズを用意したいですね!」
最後に井﨑氏から皆さんへのメッセージです!
「いつも応援なさって頂いている後援会の皆様に是非今回の演奏会を楽しんでもらおうと、このような冊子を用意して頂きました。ずいぶんな分量になりましたが(笑)、ぜひ前もって頭に入れてきてくださいね。」
今回は井﨑氏のこだわりが随所に溢れる演奏会になりそうですね。東京オペラシティがハンガリーの劇場になる?そんなことも想像できるようです。オペラシティの空間が井﨑氏の望む音響空間になるよう、また今回の演奏会が成功するように、今後とも後援会では客席がお客さんでいっぱいになるよう働き掛けたいと思っております。ぜひ皆さま更にお友達を誘って演奏会に足をお運びください。公演チケットは事務局でもまだ取り扱っております!!
井﨑正浩後援会事務局スタッフ








